Deep Purple「Highway Star」|バスの中の質問から生まれた疾走曲
「曲って、どうやって作るの?」
コンサートに向かうバスの中で、こんな質問をされたらどうしますか。紙と鉛筆を出して説明する? それとも「秘密!」と言って笑う? イギリスのロックバンド、ディープ・パープルの場合は、なんと、その場でギターを鳴らし始めたといいます。そこから生まれた曲が「Highway Star(ハイウェイ・スター)」。ステージが始まる前から、もう音楽が始まっていたのです。曲を聴くと、エンジンをかけた車が勢いよく走り出すような気分になります。でも、その最初の一歩はスタジオの立派な機械ではなく、移動中のバスにありました。
ジャーナリストのひと言がきっかけ
このエピソードは、ベース担当ロジャー・グローヴァーが複数のインタビューで振り返っています。バンドはイギリス南部のポーツマスへ向かう途中でした。同行していた音楽記者が、曲の作り方を尋ねたのです。ギタリストのリッチー・ブラックモアはギターを手に取り、勢いのあるリズムを弾き始めました。歌担当のイアン・ギランも、その音に合わせて車や道を思わせる言葉を歌い始めたそうです。ロジャーは窓の外を眺めながら「Highway Star」という名前を思いついたと語っています。最初からきれいな楽譜があったわけではありません。誰かが鳴らした音に、別の人が反応する。まるで会話のキャッチボールです。
その日のステージで試した?
ロジャーの説明によると、バスで生まれたアイデアを、その日の夜にバンドで演奏して育てました。もちろん、バスの中で鳴らしたものが、そのまま完成したレコードの音だったわけではありません。家を建てるとき、最初に柱を立ててから壁や屋根を作るように、短いリズムをもとに曲が大きくなっていったのです。ディープ・パープルのようなバンドでは、全員で音を出しながら曲を作ることがありました。これを「ジャム」と呼びます。決められた楽譜どおりに演奏するだけでなく、誰かの音から次のアイデアが生まれる方法です。バンドを組んだことがなくても、手拍子をひとつ鳴らして、友達が別のリズムで応えてくれるところを想像するとわかりやすいですね。
速いだけじゃない、5人の音
1972年のアルバム『Machine Head(マシン・ヘッド)』に入っている「Highway Star」は、最初からエネルギーに満ちています。当時のメンバーは、歌のイアン・ギラン、ギターのリッチー・ブラックモア、キーボードのジョン・ロード、ベースのロジャー・グローヴァー、ドラムのイアン・ペイス。この5人の音が重なると、力強いロックの世界が広がります。曲で注目したいのは、ギターだけではありません。ジョン・ロードのオルガンは、ギターに負けないほど前へ出てくる場面があります。ギターとオルガンが交代で主役になるところは、まるで二人の選手がリレーで走っているよう。ドラムは曲を前へ押し、ベースはその土台を支えます。耳が忙しくなるほど、たくさんの工夫が詰まっています。
ギターとオルガンの「競走」
オルガンというと、学校や教会で聞く落ち着いた音を想像するかもしれません。でもこの曲のオルガンは、そんなイメージを変えてくれます。音を長く伸ばしたり、素早く駆け上がったり、ギターと張り合うような迫力です。一方のギターも、速い音だけを並べているわけではありません。短いメロディーを積み重ねて、聴く人の気持ちを高めていきます。二つの楽器が同時に目立つだけなら、うるさくなることもあります。それでも「Highway Star」は曲全体の流れがはっきりしているので、どこを聴けばいいのかわからなくなりにくい。うまい演奏とは、速く弾くことだけではなく、ほかの人と息を合わせることでもあるんです。
日本の大阪で残された迫力
「Highway Star」を楽しむなら、スタジオ録音だけでなく、ライブ音源もおすすめです。1972年の日本公演を収めた『Made in Japan』にも、この曲が入っています。公式配信されている大阪公演の音源を聴くと、同じ曲でもステージならではの緊張感が伝わります。録音室では何度か演奏して選ぶことができますが、ライブではその瞬間の音がすべて。お客さんの前で走り出したら、簡単には止まれません。そこにライブの面白さがあります。もちろん、この曲がバスで生まれたという話と、日本公演の録音は別の出来事です。でも、ふとした思いつきが、海を越えて人々を熱狂させる曲になったというつながりには、音楽の不思議な力を感じます。
3回聴くと、違う景色が見える
最初の1回は、何も考えずに勢いを楽しんでみてください。2回目はドラムの音だけを追いかけます。速い曲なのにリズムがばらばらにならないのは、ドラムがしっかり道を作っているから。3回目はギターとオルガンを聞き分けてみましょう。「いま主役はどっち?」と考えるだけで、普段は聞き逃していた音が見つかるはずです。楽器を習っている人なら、全部を一度にまねする必要はありません。最初のリズムを手拍子でまねしてみるだけでも十分です。音楽を楽しむ入口は、難しい理論を覚えることではなく、好きな音に気づくこと。バスの中の小さなやりとりから、そんな大きな楽しさが広がったのです。
ひみつを知ってから、もう一度
「Highway Star」の面白さは、完成された名曲が最初からそこにあったわけではないことです。「曲はどう作るの?」という何気ない質問に、ミュージシャンが音で返事をした。その一瞬がきっかけになりました。今、楽器を始めたばかりでも、鼻歌しか思いつかなくても、気に入ったリズムが一つあれば曲作りの入口に立っています。ロックの名曲と自分の小さなアイデアは、案外遠くないのかもしれません。次にこの曲を聴くときは、演奏のすごさだけでなく、走るバスの中で笑いながら音を出した人たちの姿を思い浮かべてみてください。
最初に聴いたときと、物語を知ってから聴くとき。あなたには、どんな違いが聞こえるかな?
