Black Sabbath「Paranoid」|あと1曲必要!から生まれた名曲
「あと3分、曲が足りない!」
アルバムが完成したと思っていたら、プロデューサーから「もう少し曲が必要」と言われる。もし自分たちがバンドをやっていて、そんなことを告げられたらどうするでしょう。急いで曲を考える? それとも「今日はもう無理!」と言う? ブラック・サバスが選んだのは、なんと、その場で新しい曲を作ることでした。こうして誕生したのが「Paranoid(パラノイド)」。今ではロックの歴史を語るときに外せない一曲です。大切なのは、初めから大ヒットを狙っていたわけではなかった、というところです。
紅茶を飲んでいる間にギターが完成?
ベース担当のギーザー・バトラーはインタビューで、アルバムにもう少し長さが必要だったと振り返っています。オジー・オズボーンとギーザーが休憩している間、ギターのトニー・アイオミはスタジオに残り、曲の中心になるフレーズを考えていました。戻ってみると、曲の形ができていたというのです。そこから歌のメロディーと歌詞が加わり、バンドで演奏して録音しました。トニーの公式サイトでは、作曲から録音まで30分もかからなかったと紹介されています。一方、ギーザー本人が別のインタビューでは2〜3時間ほどと語るなど、かかった時間には証言の違いがあります。けれど、「追加で必要になり、驚くほど短い時間で作った」という大筋は共通しています。何分だったかを競うより、4人がすぐに音を合わせられたことの方が面白いかもしれません。
そもそもブラック・サバスって?
ブラック・サバスはイギリスのバーミンガムで生まれたバンドです。歌うのはオジー・オズボーン。ギターはトニー・アイオミ、ベースはギーザー・バトラー、ドラムはビル・ワード。当時の人気ロックにもかっこいいギターはたくさんありましたが、彼らの音は特に重く、暗く、どこか不気味。明るく踊るというより、映画で巨大な怪物が近づいてくるような迫力があります。公式のバンド史でも、彼らがヘヴィメタルという音楽の形を作った重要な存在として紹介されています。そんなバンドなのに、「Paranoid」は軽快なくらい速く走り抜ける曲。その意外さにも注目してみてください。
短いフレーズが曲を引っ張る
音楽を聴くとき、まず最初のギターに耳を向けてみましょう。複雑なことを知らなくても、覚えやすい短い音の動きが聞こえるはずです。このように、曲の中で繰り返される印象的なフレーズを「リフ」と呼びます。リフが魅力的なら、歌が始まる前から曲の顔が見えてきます。さらにドラムとベースが加わると、同じフレーズなのに急に大きく感じられます。これがバンドの楽しいところ。ギターだけの音と、4人で鳴らす音の違いを聴き比べるだけでも、立派な音楽の発見です。ギターを弾く人なら、リフを一度ゆっくり口ずさんでから、楽器で探してみるのもおすすめ。速く弾くより、同じリズムを気持ちよく繰り返すのがポイントです。
アルバムの名前まで変えた曲
1970年に発売されたアルバム『Paranoid』には「War Pigs」や「Iron Man」など、今でも有名な曲が入っています。アルバムは当初『War Pigs』という名前で考えられていたことで知られますが、最終的には『Paranoid』になりました。追加で作った一曲が、作品全体の看板になったわけです。曲を作る人も、作文を書く人も、「今日はうまくいかない」と思う日はあるでしょう。それでも、ちょっとしたアイデアが思いがけず大切な作品になることがあります。作品の値打ちは、作るのに何日かかったかだけでは決まりません。
聴き直すならここに注目
最初はギターのリフだけを追いかけてみてください。2回目はドラムがどこで勢いをつけているか。3回目は、歌の言葉と演奏の元気な感じがどう違うかに耳を傾けます。曲の速さに引っぱられそうですが、歌詞には明るいだけではない気持ちも出てきます。激しい演奏と、心の内側を見つめる歌が重なっているんですね。ひとつの曲でも、注目する楽器や言葉を変えると、何度も新しく楽しめます。たった数分の曲の中に、まだ知らない発見が残っている。それこそが、長く愛される名曲の面白さです。
同じバンドでも曲によって顔が違う
「Paranoid」を気に入ったら、同じアルバムの「Iron Man」も聴き比べてみましょう。こちらはゆっくりとした重たいギターのフレーズが大きな特徴です。「War Pigs」では、長い曲の中で場面が変わっていく面白さを感じられます。同じ4人が、同じ時期に作った曲なのに、走るような速さ、ずっしりした重さ、映画のような展開と、まったく違う表情を見せます。バンドにはひとつの「正しい音」があるのではなく、いろいろな表現ができるということですね。お気に入りの曲を1曲見つけたら、同じアルバムを続けて聴いてみる。それだけで音楽の楽しみはずいぶん広がります。録音について調べると、当時の機材やスタジオの話に出会うこともありますが、難しい名前を知らなくても、まずは音の違いを楽しめば十分。曲の裏話は「そうだったのか」と聴き方を変えるきっかけです。
最初は何も考えずに1回。2回目は好きな楽器をひとつ選んで聴いてみよう。何度も聴くほど、新しい音が見つかるかもしれません。
