003 コピーは耳から始まる。|『不確かなことより、確かなことを。』
コピーは耳から始まる。
音楽を始めたばかりの頃、多くの人はまず楽譜を探します。
「TAB譜はありますか?」
「コード譜はありますか?」
もちろん、楽譜はとても便利です。
でも私は、それよりも先に大切にしてほしいことがあります。
まずは、耳で聴くことです。
コピーは楽譜から始まるものではなく、耳から始まるものだと思っています。
私たちは子どもの頃、言葉を覚えるときに辞書を開きませんでした。
家族の話し方を何度も聞き、そのまま真似をすることで話せるようになります。
音楽も同じです。
まず聴く。
そして真似をする。
その繰り返しの中で、少しずつ音楽が自分の中に入ってきます。
レッスンでも、私はよくこんなことをお伝えします。
「まずは原曲を何回も聴いてみましょう。」
すると、
「まだ弾けないので……。」
という返事が返ってくることがあります。
でも、弾けるようになってから聴くのではありません。
弾けないうちから何度も聴くことに意味があります。
何度も聴いていると、
イントロの入り方。
歌の息づかい。
ギターのニュアンス。
ドラムのフィルイン。
ベースの動き。
今まで気付かなかった音が少しずつ聴こえるようになります。
耳が先に曲を覚えてくれるのです。
私はコピーをするとき、楽器を持たずに音源だけを流す時間をとても大切にしています。
車を運転しているとき。
歩いているとき。
仕事をしているとき。
何気なく流しているだけでも、曲は少しずつ頭に入っていきます。
そして実際に楽器を持つと、
「あ、この流れか。」
と自然に指が動きやすくなります。
耳が準備をしてくれているからです。
コピーは、「音を当てる作業」ではありません。
演奏している人の考え方を知る作業でもあります。
なぜ、このリズムなのか。
なぜ、この音を選んだのか。
なぜ、このタイミングで強く弾くのか。
そうしたことを考えながらコピーすると、ただ弾けるだけではなく、音楽そのものを見る力が育っていきます。
「コピーばかりしていたら、自分らしさがなくなる。」
そう思う人もいるかもしれません。
でも私は逆だと思っています。
たくさん真似をした人ほど、自分らしい演奏になります。
料理人も最初は師匠の味を真似します。
画家も最初は名画を模写します。
スポーツ選手も、一流選手のフォームを研究します。
音楽だけが例外ではありません。
真似を積み重ねた先に、自分だけの表現があります。
耳は、一日で育つものではありません。
でも毎日少しずつ育てることはできます。
一曲を何度も聴く。
好きなフレーズだけを繰り返し聴く。
昨日より一つでも新しい音に気付けたら、それだけで十分です。
その積み重ねが、一年後には大きな違いになります。
私は音楽を教える仕事をしていますが、本当に育てたいのは「弾く力」だけではありません。
聴く力です。
よく聴ける人は、よく弾けます。
よく聴ける人は、人の演奏にも気付けます。
よく聴ける人は、自分の音にも気付けます。
だから私は、これからも「まず耳を育てること」を大切にしていきたいと思っています。
ムジカスケッチで大切にしていること
このシリーズでお伝えしていることは、音楽を教える中で感じたこと、生徒さんとの出会い、そして私自身が経験から学んできたことを、一つひとつ言葉にしたものです。
ムジカスケッチでは、「正解を覚えること」よりも、「自分で感じる力」を大切にしています。
コピーも、その一つです。
耳で聴き、感じ、真似をしながら、自分だけの音楽を育てていく。
その積み重ねは、演奏だけでなく、考える力や挑戦する力にもつながっていきます。
音楽は、人生とよく似ています。
誰かの経験から学びながら、最後は自分だけの答えを見つけていく。
そんな時間を、これからも一人ひとりと共有していきたいと思っています。
不確かなことより、確かなことを。
今日耳で聴いた一音が、未来のあなたの音楽をきっと支えてくれるはずです。
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